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===灰の章===
2【―水草の如く―】
 足跡を辿っていった花たちは、地下鉄の構内に辿り着いた。人の声がする方に走っていった花たちは、そこで水場の所有権を巡って武器を持って争う蘭と流星・十六夜を目撃する。
 蘭は去っていき、直後、地下鉄構内が崩れ始めた。十六夜に連れられて脱出した花たちは、そこでくるみと茜に出会った。抱きしめあう流星とくるみの姿に、ほのぼのとする花。
 潮が満ちてきて、海女の茜は、海に食べ物を採りに出る。花もついていくが、とても茜には敵わない。花が潜った先には、奥深くまで続く、立体駐車場跡があった。
 夜になり、ハルは流星たちに人質にとられた。流星は花に、「ハルを人質に取ったから、ボートで駐車場の向こうの穴を探ってきて欲しい」と頼む。怒りながらも花と荒巻はボートに乗って探りに出た。心配した十六夜も、花たちに加わった。

3【―森は生きている―】
 ボートに乗る花たちに、蘭・秋ヲ・朔也が襲いかかり、ボートを奪って去っていった。泳げなくて溺れる荒巻を、犬の吹雪と美鶴さんが加えて、岸まで引き上げる。
 そのまま洞窟の先を進む道中で、花と荒巻は、くるみが流星の子どもを妊娠したことから秋のチームが分裂したことを十六夜から聞いた。蘭と秋ヲは、自分達をここに送った連中を、心底憎んでおり、出産に反対したからだ。
 花たちは、巨大な換気扇を発見した。その先にはライトがつけられ、植物が異様に育っている。荒巻はここは畑で、避難シェルター跡なのではないかと推測した。
 その頃蘭たちも、別の入り口からシェルターに入り、「夏のセクション」と名付けられたコントロールルームに入って、PCをいじっていた。地図を見た蘭たちは、春のセクションに居住区が、秋のセクションには畑が、冬のセクションには貯蔵庫があり、このシェルターの名称が「龍宮」であることを知った。早速蘭たちは冬のセクションに向かった。
 一足先に冬のセクションの扉の前に来ていた花たちは、ドアが大きなバツ印で閉じられているのを目撃する。異様な雰囲気に、花たちは冬のセクションの扉を開けずに、別の場所へ移動した。
 夏のセクションの扉の前に着いた花たちは、そこで日記を持って干からびているミイラを発見した。

4【―夏への扉―】
 花は日記を読み上げた。最初の日付は、花たちが眠らされてしばらく後の日付だ。

―えらいことになった。日記とかつけたことないけど、なんか書き残しといたほうがええような気がするんで、書く。今思たら、あの日が運命の別れ道やったんやな。―

 お笑い芸人のマークは、ピートという人形で腹話術を披露していた。近頃、連日のように貴士が通ってマークを見ている。
 ある日、マークは貴士に声を掛けられた。

 貴士「君は、最後の最後まで、嘘がつけるか?最後の最後まで、芸ができるか?」
 マーク「勿論です!お仕事やったら、やらしてもらいます!」

 マークは笑顔で答える。
 
 貴士「じゃあ、頼みたい仕事がある。少し長丁場になるが、事務所には通しとくので。来月最初の日曜、ここに来てくれ。僕の名前を出してくれたら入れるから。」

 貴士はマークに紙を手渡した。

―そのオッサンは、貴士とだけ名乗った。―

 父と同じ名前を日記に見つけた花の声が、一瞬止まる。

―指定された場所は、大阪と京都の中間あたり。―

 到着したマークは、そこで同じ仕事で呼ばれた歌手の神酒マリアと出会う。警備員にインカムを渡されたマークとマリア。

―イヤホンからきこえてきたのは、貴士さんの声―

 貴士「ようこそ、マーク、マリアさん。車を駐車場に停めて、地下鉄に乗ってくれ。行き先は一つなので、停まった所で降りればいい。」

―車内は人が大勢やった。幸せそうな家族連れや、カップルが。―

 車内でマークとマリアは会話する。新しいテーマパークのオープニングイベントでふたりとも呼ばれたのだという。

 マーク「マネージャーとか、付き人とかは!?」
 マリア「一人で行けって言われた。全部向こうで用意するからって。変な話。なのになぜか飼ってる犬は連れてけって。」

 地下鉄が終点の龍宮に着いた。マリアと知り合いのDJ各務が、場内アナウンスを務めている。野球選手の火野も招待されてやってきた。

―お客は5千人てきいた。どえらいにぎやかやった。―

 所長の織田が、招待客全員にオープニングの挨拶をする。
 部屋で待つマークとマリアの元にDJの各務と、映像係の猿渡、有名漫画家の坂田が現れ、それぞれに挨拶をする。

―僕らの部屋はお客さんとは離れてて、夏のセクションてとこにある。お客はなんも知らんかった。イベントに無料招待でラッキーやと思てた。みんな、騙されてた。明け方、地震があった。揺れは、不気味に続いた。変な地震やと思た。―

 貴士が場内アナウンスをするように、各務に命じる。躊躇する各務に、貴士は言う。

「カガミくん、最後の最後まで、どんな時でも臨機応変に喋れるかときいたら、できると答えたな。」

 各務は覚悟を決めて、アナウンスを始めた。

「皆さん、どうか落ち着いてください。これから、地上で流されてるニュース映像を、センターホールの大スクリーンに出します。…皆さん、出来たら座って。できたら、大事な人の手を握って見てください。」

―最初は何が映ってんのか、ようわからんかった。よく見るニュースキャスターが、やたら叫んでいた。―

「昨夜…深夜すぎ、直径数十キロにも及ぶ隕石が、北アメリカ中央部に落ちたそうです。続いて太平洋に二つ。シベリアとインド洋にも落下。その後、様々な大きさの隕石が世界中に降り注ぎ…それは今もなお、続いているそうです。落下の衝撃と爆風と火災で、多くの都市が跡形もなく消え去り、また、引き起こされた高波によって、海岸線のみならず、内陸の8割が水に埋まり、この日本列島も例外でなく、押し寄せる高波になすすべはなく、更に休火山のいくつかが活動を始め、富士山も先ほど噴火…日本は、数時間で壊滅状態に…」

―その時やっと、スクリーンに映ってるもんがなんなんかわかった。ウソやろ、そう思たわ。―

 警備員が現れ、動揺する招待客たちを整理する。貴士は納得が行かない招待客たちをいくつかのグループに分けてエレベーターに乗せ、外の様子を見せた。

―そのエレベーターは地上直通やった。まあ、こんなアホな話はないやろ、なんちゅう大げさなネタを振るんかと、僕は自分の目で見るまでは…もう夜が明けてる時間やったけど…えらいことになった…と思た。―

 貴士「舞い上がった粉塵と噴煙で太陽の光が届かず、地球は冷えてゆく。ミニ氷河期の到来だ。生き残れる植物も動物も、ほとんどないだろう。」
 マリア「水に埋まるのを知ってたから、"龍宮"なんですね。知ってたんだ?」

―エレベーターは数回上下し、代表で行った人々は、腰を抜かして転がりでた。えらいことになったなあと、ぼんやりと考えてた。―

 ホールで所長が招待客に語り始める。

「皆さん!これは予測されていたことです。数十年前から、予測されていました。だから政府は対策を講じたのです。それが、ここです。ここ龍宮は、この日のためのシェルターです。あなた方は、生き残るべく選ばれた人たちなのです。食料などの備蓄は万全です。ここだけで自給・循環できるエネルギー・システムも万全。なんの心配も要りません。このようなシェルターが日本中にいくつもあります。相互に連絡を取り合い、協力しあっていきます。皆さんはここで、外に出られるその日まで、頑張って力を合わせ、希望を胸に、ここで生きてゆきましょう!」

 パニックが起きた。

―泣いて叫ぶ人たちと、放心する人たちと、出口を求め警備員に殴りかかる人たちで、将棋倒しになりそうやった。ああ、みんなそれで死ぬんやなあと思た。人は悲しくて死ぬんや。

 マリアが救った。―

 ホールの舞台に立ったマリアは歌い始めた。即興で各務もピアノを弾く。

―テレビで毎日いやっちゅう程きいてる、マリアのバラードやった。それやのに、泣けてきたんは、なんでやろ。天使の声て、ほんまこんなんちゃうか…って、思えたからかなあ…。

 みんないつのまにか、静かに泣いていた。僕らは、自分達の役割を知った。―

 マークは客の前で腹話術をして、皆を笑わせて回った。

5【―狭き門―】
―奇妙な日常が始まった。センターホールの天井は巨大なスクリーンになってて、24時間季節と時間に合わせた空が映る。夜には星空になるし、雨の日もある。雨ゆうても、音だけやけど。館内あちこちにスクリーンやモニターがあって、いっつも自然の風景が映ってる。―

 貴士「これが欧米やイスラム圏なら、まず教会やモスクを中心に据えるんだろうが、日本人にはそういう拠り所が実はない。あるとしたら自然の風景と、四季の移ろいなんだよ。都会人でもね、自然の中に八百万の神々を見てきた民族だから。」

―貴士さんの言うとおり、海を模した一角には、いっつも人が集まってる。ちゅうても小ちゃい神社も、寺もあんのやけど。合同葬儀も行われた。多くの人が身内を亡くしてたから。その点僕は、近しい身内がいてへんので、気楽や。―

 マリア「わたしもそうよ。カガミくんも、サルワタリくんも、そうらしいわ。わたしたちやスタッフに関しては、そういう人選をしたのね、きっと。」

―人選については聞いてみた。―

 貴士「君が一番、嘘がうまいような気がしたんだ。」

 坂田は毎日2ページの連載漫画、「ワンダフルQ」を配信し始めた。

―日本中のシェルターと、毎日交信がある。みんなで励まし合いや。人々は一回落ち着くと、静かに指示に従った。確かに一つの街やった。みんな週休二日で働き始めた。僕はとゆうと、今まで通りネタを考え、練習して、あちこちを訪問して披露する。週末は、ミキ・マリの舞台の前座や。
 水は、飲み放題や。他の飲食には、チケットが配給された。―

 マークはしばしば、おっちゃんの開くラーメン屋に足を運んだ。

―おっちゃんは、騒ぎの時先頭に立って帰るてわめいてた人やけど、今は娘さんと元気に働いてる。おっちゃんは、上でもうまいラーメン屋をやってたらしい。―

 シャチのピー助の着ぐるみに入った貴士は、日々苦情を聞いて回る。

―奇妙やけど、みんなちゃんと毎日を生きてる。その大人たちのちゃんとさに、僕はちょっと感動した。まだ地震は頻発してて、ひやりとすることも多いけど。ちょっと不穏げな若者もいてるけど。―

 美帆は倉庫で備品係を務めていた。美帆はある日、倉庫の奥で吸殻を発見する。

―僕らは毎日集まって、報告会をするのが日課になった。―

 貴士「喫煙者は入れたくなかったんだよ。空気は汚すし、火事も心配だし。」
 マーク「他にはどんな選考基準やったんです?」
 貴士「酒癖が悪いのもはじいた。60代以上は選ばず、50代もわずか。特別なアレルギー体質や持病のある者、偏食の者、太り過ぎの者、あとは犯罪歴のある者、学生時代いじめを平気でやった者、ニートも入れなかった。」
 マリア「つまり若くて健全で働き者を選んだと。」
 貴士「そうなる。あとはなるべく、親子やカップルで入れるようにした。」
 マーク「貴士さんの家族は?」
 貴士「妻が倉庫で働いてる。」
 各務「奥さんいてるんや!子どももいてたりして!?」
 貴士「こどもは…別の所にいる。」
 マーク「別のシェルターに!?なんでまた?」
 貴士「あらゆる門は狭いのでね。いや…妻の口癖なんだが。」

―週に3日、野球中継がある。どこかに球場用ドームがあるらしく、火野選手や他の選手があちこちのシェルターから集まって、試合をする。観客席がないそうで、モニター応援しかできへんけど、みんなめっちゃ盛り上がる。憩いのひとときや。―

 ある晩、倉庫の備品チェックに行った美帆は、そこで壁にドリルで穴を開ける若者たちを発見する。急いで若者たちを止めようとする美帆だが時既に遅く、次の瞬間、壁から大量の海水が浸水してきた。
 急いで対応しようとする美帆だが、若者たちがシステムの電源を切ったせいで防護扉が閉まらない。美帆は近くのPCで扉を閉める指示を出したが、1つだけ扉が閉まらなかった。
 わずかに開いた防護扉からは、外に出られるだけの隙間はない。美帆は覚悟を決めて、内側からドアを閉じた。
 倉庫にいる美帆にコーヒーの差し入れに来た貴士は、閉ざされた扉の中で、水中に閉じ込められた美帆と目があった。貴士は美帆の最期の時を見届けて、膝を落とした。

―今朝は雨の音で目が覚めた。館内は騒がしく、夜の内に倉庫が海水で埋まって、それを防ごうとした貴士さんの奥さんが亡くなったことを知った。―

 冬セクションの倉庫の3/4が埋まり、水を抜く方法はない。このままでは食糧が3ヶ月も持たない。貴士は大臣たちと会議を開いて、Xプランを発動させることにした。
 半分の住民を、別のシェルターに移動させると所長は指示を出した。

―転がり落ちるみたいに、何かが始まってた。―
 
6【―クリスマス・キャロル―】
―倉庫が水で埋まって食糧が減ったんで、半数の人が近くに完成したシェルターに移ることになった。マリアさんのコンサートで送り出す。勿論僕も、新作を披露。
 人々は少しずつ地下鉄に乗って、伊勢シェルターに移って行った。翌朝のシェルター通信に、伊勢も加わる。最近ノイズが多くて、映像も音も乱れがちやけど、他とつながってるちゅうのは、何より心強い。―

 所長が中心になって「クリスマス・キャロル」の演劇の練習を始め、牛の世話をする忠さんは自腹を切って子供たちにミルクを配って回る。

―みんなお互いそれぞれを、元気づけよとしてるんやと思う。スクリーンにクリスマスイルミネーションが加わった。手作りオーナメントと願い事の短冊を木に吊るすのが大流行。またお達しがあった。更に半数の人間が、伊勢シェルターに移ることになった。―

 最近、具合が悪そうな猿渡を各務たちは問い詰めた。

 猿渡「聞いたら共犯になるけどええ?ほんまはね、1ヶ月前ぐらいから、どこのシェルターとも連絡がとれへんねん。首相がいてる関東も、四国も九州も、北海道もどっこも。」
 各務「毎朝シェルター通信来てるやん。」
 猿渡「ほやからあれは、僕が作ってる映像なん。使い回して切り貼りして、ノイズを入れてごまかして、毎日作ってるんよ。」
 マーク「伊勢は?」
 猿渡「ほやからつまり、伊勢からもほんまは連絡ないんやわ。」
 火野「嘘はそれだけとちゃうよ。」
 マーク「え!?今、試合に行ってるんちゃうん?」
 火野「そんなもの、ないよ。球場シェルターなんかない。オレはずっとここにいてた。ここでサルくんと、試合の映像を作ってた。貴士さんがオレに聞いたんや。最後の最後まで、野球選手でいられるかって。『野球ができるか』じゃないとこがミソや。まさか野球をするフリをせなならんとは。」
 猿渡「ほやから心配で寝られへんよになってんねん。『伊勢』なんてシェルター、ほんまにあるんやろか?」
 各務「所長!一体どうなってんねん!」
 織田「あの…すみません。私は何も知りません。所長というのは嘘なので。私…売れない役者なんです。ある日貴士さんが来て、ちょうどいい役があるって…」

―嘘ばっかりや。もし「伊勢」も嘘やったら…!?―

 貴士「知りたいか?なら明日、伊勢に移る人たちの列車に、一緒に乗って行くといい。」

―僕が行くことになった。みんなは持ち場を離れられへんかったから。僕とピー助が車内で漫才を繰り広げる。やがて地下鉄は、小さな駅で止まった。―

 ピー助に扮した貴士に促されて、マークは列車を降りた。乗客たちは全員眠り始めた。催眠ガスが入れられ、警備員たちが乗客の身ぐるみを全部剥がした。
 裸の人間たちは全員、巨大なファンの待つ穴に落とされ、バラバラにされた。
 マークは逃げ出し、地上に向かってはしごを登りはじめたが、上に行くにつれてはしごは凍りつき、登ることが出来なかった。
 仕方なく戻ったマークは、貴士に尋ねる。

 マーク「…なんも…感じへんのか…?あんた…」
 貴士「だから一応、知り合いのいない関西にしてもらった。」
 マーク「じ…自分達から減らしたらどうなにんや。」
 貴士「いずれそうなる。外に出られなければ。」
 マーク「僕も…僕らも殺すんか?」
 貴士「君等は僕が見込んで連れてきたんだ。まだまだ働いて貰わないと。ほら、次が来たぞ。最後に楽しんでもらえ、マーク。出来るな?最後の最後まで、君は嘘がつけるだろう?」

 シェルターに戻ったマークは、全てをマリアたちに話した。
 ある日、顔なじみのラーメン屋のおっちゃんも、伊勢に移ることになった。おっちゃんをなんとか引きとめようとするマークに、おっちゃんは答えた。

「ええんや、マーク。娘が残れるんやから。わしはもう充分したいことしてきたし、ここまでラーメンが作れて幸せやった。娘がここにいてられることが望みなんや。なんもせんでええ。笑かして見送ってくれ。」

 涙をこぼしながら、マークは最後のラーメンを啜った。

―僕らはおっちゃんたちを見送った。おっちゃんも僕も笑てた。おっちゃんの最後のラーメンを、もっと味おうて食うたらよかった。―

 マークたちは真実を知って動揺しながらも、皆プロとして他の住民たちの気が紛れる用に、それぞれに行動していた。
 ある日突然、牛のメアリーが暴れて咬みつく騒ぎが起きた。

―劇の上演は中止になった。それどころじゃなくなったからだ。―


===穀雨の章===
12【―動物の謝肉祭―】
 涼は鷭に、ワイヤーで出来た傷の手当をしてもらっていた。

 涼「鷭、おまえ、人の手当てして回ってるのか?自由にか?先生からの仕掛けはなしか?」
 鷭「手当てできるケガとか、軽い腹痛とかだったらいいけど…どうにも、できない…僕にできることは、限られてる…」

 鷭の脳裏に、これまで救えなかった沢山の生徒たちの姿がよぎる。涙が頬をつたった。

―それが、こいつにとっての、テストなのか…―

 涼は、鵜飼が銃を持って半狂乱で安居を探していることを知らされる。
 
 鷭「熊は、死んでた…それは、責められない…」
 虹子「あらよかった。虎は?」
 鷭「虎は、源五郎くんがずっと、捜してる…」

―自分で育てた動物との対峙。それが、源五郎にとってのテストか。人それぞれに、テストの形が違う。オレのテストはなんだ?選ばれるのは、クラスに一人ずつ。安居が茂と一緒に選ばれようとするなら、安居よ、オレたちは殺しあわなきゃならないな。―

 源五郎は次々と、毒蛇やサソリ、危険な生き物たちを殺して回っていた。牛を槍で追い回す生徒たちの姿が目に入る。牛の目からは、涙がこぼれている。源五郎はショックを受けながらも、「一撃でやってくれ。」となたで牛の首を切って、殺してあげた。
 殺した牛の肉で、端午を捕らえるための罠を仕掛ける源五郎。ふと、猿のジリが通りかかった。肩に矢が刺さっている。顔を歪める源五郎。

―端午を捜して、見つけて、それからどうするんだ。仲間のいる自然の山に、帰してくれるか?動物園に送ってくれるか?先生が?まさか!このままここに放置か!?ダメだ。イヤだ。僕は、殺さない。殺せない。―

 一人、野宿する安居の元に、貴士が訪れた。

 貴士「涼には話したので、君にも言っとかないと、不公平だと思ってね。7人の選び方だが、7つのクラスに一人ずつだ。つまり、君と茂と涼の3人は、うち二人しか残れない。」
 安居「そうっすか、じゃあ、涼が脱落すればいいってことでしょ。」
 貴士「ところがね、先生たちはなんとしても涼を入れたいんだ。つまり、火のクラスで涼を残すとすると、水のクラスの席は一つだ。君と茂のどちらか一人しか、残れない。仲良しだよな。茂に譲るか?茂にも話そう。茂は君に譲るかな?いや、まあまだ他にも候補はいるけどね。じゃあ、邪魔したな。頑張れよ、安居。」

 源五郎の元に端午が現れ、源五郎に襲いかかる。川に落ちた源五郎を見て、端午は去っていった。

―僕が、わからなかったのか?あの姿は、あの声は、なんだ?痩せて、濁った目で、泡を吹いて、尻尾を巻き込んで、喉のつまったようなうめき声を…水をいやがった。―

 ハッと何かに気付いた源五郎は、戦慄する。一晩が明けた。

 安居の元に、端午が現れた。一目見て端午の様子がおかしいと気付く安居。そこに、源五郎も現れた。

 安居「源五郎!?来るな、狂犬病だ!オレは狂犬病の野犬を見た。どこかで感染したんだ。発病したら、助からない。苦しんで死ぬ。オレが楽にさせるから、おまえは見るな!」
 源五郎「ありがとう、安吾くん。だから、僕がしないと…」

 源五郎がやさしく端午に近寄る。

 源五郎「端午、僕だよ。端午、おいで。」
 安吾「やめろ!噛まれたら伝染る。飛沫からでも伝染るかもしれないんだ!」

 源五郎に端午が襲いかかる。子どもの時から一緒に育った端午や、ジリや、青葉との思い出が源五郎の脳裏によぎる。動物たちと暮らした、幸せな日々が。
 端午の首に腕を掛けた源五郎は、泣きながら、苦悶の表情を浮かべながら、端午の首をへし折った。あんなに可愛がった端午が、自分の腕の中で、鼓動を小さくしていく。

 安吾「源五郎…もう、息絶えたよ。」
 源五郎「こんな…こんなことのために…こんなことのために、育ててきたんじゃない!!端午…端午…」

 端午の亡骸を焼きながら、二人は話す。

 源五郎「安吾くん、前に、端午と3人で、朝虹を見たよね。安吾くんはつらそうだった。あれはきっと、今回につながるような何かを見たんだね。」
 安吾「脱落したのばらが、殺されてたんだ。」
 源五郎「人をそんな風に扱うぐらいなら、彼らにとって他の動物の命は、もっと軽いんだろう。行かなきゃ。まだ、僕の手を待ってる連中がいる。」

―源五郎は、決着をつけた。オレの決着は、どうつけるんだ―

13【―流浪の民―】
 一人、サバイバル生活を送る安吾。

―茂は、馬鹿じゃない。記憶力は、時々すごい。だけど、要領が悪い。子どもの頃、辞書を引くのが遅かった。覚えたほうが早い、そう言って本当に覚えたのだ。茂は自分で言うような「ダメ」じゃない。ただ、焦ったり、びびったりするから、力を発揮できないんだ。体力、実技は不安だが、集中するとおそらく脅威になる。貴士先生。言われてみて初めて思うけど、譲るという選択肢はない。茂には、あるかもしれない。繭や小瑠璃も、お互いありそうだ。でも、オレにはありえない。―

 あゆは、いじめっ子2人が死んだ場所から動けないでいた。やつれた男子生徒が現れ、死んだ2人の荷物を漁る。

 男「な、なあマドンナ。オレたち、一緒に行動しないか。二人で協力したほうが、ほら、何かと安全だし、心強いし、な?」
 あゆ「何が心強いのかしら。結構よ、一人のほうがいいから。」
 男「そう強がらずにさあ、怖いだろ一人で!オレが守ってやるよ。」

 男はあゆを押し倒す。

 男「オレさあ、オレずっと、あんたのこと、好きだったんだ。ここで会えたのも運命さ。な、一緒に行こうや。」
 あゆ「こんなときに、何言ってるのよ。」
 男「こんなときだからだろ!こんなときだからさ!生き物として当然さ。仲間がボロボロ死んでいく。オレは、なんの経験もしないまま、死ぬのはイヤだ!二人であったかくなろうや。オレ、ほんとにあんたのことが。」
 あゆ「…すぎる。馬鹿すぎる。どうしてそんなに、愚かでいられるのかしら。馬鹿は野垂れ死ねばいいのよ!」

 あゆはナイフで男を斬りつけ、男は後ずさって崖に落ちていった。

「馬鹿が何人野垂れ死んでも、わたしのせいじゃないわ。わたしが悩むことはない。わたしは行くわ、未来に。馬鹿がすべて滅んだ、美しい国に、行ってみせる」

 あゆはようやく場所を移動し始めた。

 鵜飼は茂に遭遇した。「安吾に会いたいんだ、どうしても。お前なら連絡つくだろ。」と、鵜飼は言う。
 磁石がきかない危険な森の中に茂がいるのを見つけた安吾は、茂を呼び止めようとする。しかし、安吾は口をつぐんだ。次の瞬間、茂と一緒にいる鵜飼の姿が目に入った。

―なんだ、一人じゃないのかよ。もう誰かと一緒かよ。別にオレじゃなくてもいいのか。心配してやったのに。ああ、勝手にしろ!―

 安吾は去っていった。
 夜が更けて、安吾の目にモールス信号の光が目に入った。

「し・げ・る お・お・け・が す・ぐ・こ・い う・か・い」

 その光を、涼もまた見ていた。鵜飼におびき出される安吾の様子を見学に出かける涼。虹子はついていかない。

―茂!なんてことだ、ちくしょう!昼間、声をかければよかったんだ!―

 鵜飼に会った安吾は、茂の様子を問い詰める。そこに、全く無事な様子の茂の姿が目に入った。次の瞬間、鵜飼は真っ暗な縦穴の中に、安吾を突き落とした。

 鵜飼「よくもオレたちを罠にはめたな!おかげでみんな死んだよ!」
 安吾「なんだ!なんの話だ、鵜飼!」
 鵜飼「その穴は、かなり深そうだ。ゆっくり味わえ、安吾。おまえもオレたちと同じように、穴ぐらの中を、死ぬまでさまよえ!」

 急いで安吾の助けに向かう茂に、鵜飼は銃を向ける。陰から見ていた涼が火薬を投げ入れ、爆発した拍子に茂は逃げる。鵜飼は発砲しながら茂を追う。
 磁石のきかない迷い易い森を、記憶力のいい茂は逃げていく。冷静さを完全に失った鵜飼には、道は覚えられない。鵜飼を撒いて逃げる茂の腹からは、血が流れていた。弾が当たっていたのだ。
 茂を見失った鵜飼はやがて発狂し、うずくまって、雪に埋もれて凍死していった。

―昼間、茂を見た時に、声をかければよかった。あの瞬間生じた薄汚い感情を、オレは生涯呪うだろう―

14【―組曲〈展覧会の絵〉より 小人―】
 木にロープを巻きつけ、茂は安吾が落ちた縦穴に救出に向かう。それを陰から涼が見ていた。
 運良く底の水たまり落ちた安吾は命は無事だったが、足や肩を痛めてしまった。そこに、ロープを伝って茂が助けにやってきた。

 安吾「おまえ、鵜飼とグルになって、オレをはめたのかよ!」

―違うだろ、茂に限って、そんなことありえない。―
 
 茂「ごめん…まさかこんな…」

―ごめんは、オレが言うべきだろ。昼間声をかけてりゃこんなことには!―

 安吾「でも、よかったな。オレはもうボロボロだよ。お前が代わりに選ばれるかもな!」

―何を言ってんだ、オレは!―

 思いと裏腹の言葉が、安吾の口をつく。

 涼「意外とみっともないな、安吾。無様なおまえって、わりかしそそるぜ。」

 そこへ、涼も現れた。

 涼「鵜飼は森で迷って凍ってるぜ。へなへな君が、よく捲けたな。」
 安吾「茂が!?」
 茂「僕は、安吾を助けにきたんだ。早く上がろう。」

 次の瞬間、茂と涼が降りてきたロープが落ちてきた。誰か先生が切り落としたのだ。涼と探索し、茂は上への出口を見つけてきた。傷から血を失いつつある茂は、一瞬、立ちくらむ。
 茂は安吾とロープを結び、二人で崖を登ることにした。二人を尻目に、涼はロープを使わないで体ひとつ、フリーソロで登ることにした。怪我をした安吾のために、いつもとは逆に、茂が先に登って安吾がセカンドにつく。

―安吾の震えが、ロープを通して伝わってくる。つらいと思う。絶対先に行きたいよね、安吾。でも、ごめん。僕、ちょっとうれしいんだ。僕は今、安吾の命に責任を持ってる。そんなこと、初めてなんだ。安吾はずっと、一緒に未来に行こうって言ってくれてた。でも僕はどこかで、自分は無理だと思ってたんだ。でもね、でも今、ちょっと思うんだ。僕も行けるんじゃないかって。僕も行きたい!安吾と一緒に行きたい!僕、うれしいんだ、安吾。―

 ロープから伝ってきた茂の血に気付いた安吾は、茂が怪我していることを知る。茂のケガを気遣って、安吾が先に登ろうとする。しかしセカンドに慣れていない安吾はプロテクションを外し忘れ、引っかかってしまった。
 次の瞬間、ロープに引っ張られて岩から離れてしまった茂が落下し、脆い岩盤から他のプロテクションも外れ、安吾も落下してしまった。急いで手を差し出した涼がロープを掴んで二人は落下を免れたが、長くは持たない。
 血を大量に失った茂には、壁に再び取り付くだけの体力も残されていなかった。涼はハッと気づく。

―そうか、貴士先生、これがオレの役回りか。―

 涼はナイフを取り出す。

 涼「おまえも茂も、できないだろ。」
 安吾「やめろ!やめろ、涼!」
 涼「オレは、できるんだぜ。」

 茂もまた、ポケットからナイフを取り出していた。

―ねえ…少し天井が明るくない?夜明けじゃないかな。出口だ…安吾…僕、いつもより、頑張ったでしょう?僕、頑張ったよね―

 茂はナイフをロープに当てる。茂と涼、どちらがロープを切ったのが早かっただろうか。茂は一人、暗い穴の底へ落下していった。安吾の頭の中が、真っ白になる。ごめんも、ありがとうも言えないままだった。
 涼が先に登ると、貴士が待っていた。教師たちが、呆然とする安吾を助けだす。

 安吾「茂も助けてやってくれ…下にいるんだ…」
 貴士「ようやく決着がついたな。ロープを落とした甲斐があったよ。」
 涼「あんたかよ。」
 貴士「だからね、涼。あの時僕を、殺しておけばよかったんだよ。向こうへ行ったら、そういう判断を間違うなよ。」

 安吾は言葉にならない。

 貴士「なんでそこまでって、ききたい?そうだなあ、僕はちょっと、君たちが憎いのかもしれないね。君たちは未来に行って、うまくすれば新しい人生が続けられる。幸運な子たちだ。でもこれから生まれる子どもは、せいぜい君らの年までしか生きられない。」

 卯浪に無線で連絡が入る。生き残った7人が決まった。

15【―〈新世界より〉より 家路―】
 要が自信ありげに、7人の元に向かう。

―彼らは夢をかなえた。彼らは勝者だ。ドヴォルザークの「家路」が流れる。お帰り、みんな。よく頑張った。そしておやすみ。―

 卯浪が意気揚々とドアを開ける。

 卯浪「みんな、揃ったか!おめでとう!君たちが、栄光ある7人に選ばれた!この苦しいテストを勝ち抜いた君たちは、今後何ものにも負けないだろう。本当によくやった!おめでとう!!」

 要が目にした光景は、予想とは違うものだったのだろうか。瞬時に、冷たく、無表情になる。
 安吾、小瑠璃、源五郎は青ざめ、立つことすらできない。安吾に至っては、頭が半分白髪になっている。かろうじて立っている鷭の目からは涙が溢れ、あゆと涼は呆然とやつれきっている。虹子は相変わらずの無表情だ。

 小瑠璃「行かない。行きたくない。繭ちゃんが行かないなら、行かない。繭ちゃんがいないのに、なんで繭ちゃんが行けなくて、あたしが行けるの、なんで!」
 源五郎「僕も行きません。まだワニが1匹、野放しです。傷ついた猿も。小さいものも、沢山…放っては行けません。」
 卯浪「そんな瑣末なことは、どうでもいいだろう、放っとけ!」
 源五郎「……瑣末…何が瑣末なんだ!」

 源五郎は激怒して卯浪を睨みつける。

 鷭「僕も…あの…やめます。役に…立ちません。学びたいことがたくさんあるので…今回は…棄権します…」
 卯浪「おまえら…おい、安吾!安吾、なんとか言え!おまえがリーダーになるんだろ!」

 要の視線の先にいる安吾は、何も聞こえていない様子で、目の焦点も合っていない。卯浪は小瑠璃を張り倒す。

 卯浪「バカヤロウ!おまえらは、仲間の死を無駄にするのか!仲間の命を、願いを、踏みにじるのか!みんな未来に行きたかったんだ。夢を抱いて倒れたんだぞ!繭だってそうだ!未来に行こうと、最後の最後まで頑張ったんだ!なぜその思いを大事にできない!!」

 小瑠璃は憎しみを込めて卯浪を睨み返す。

 卯浪「源五郎!動物だって、生きたいんだ!おまえに殺す権利があるのか!おまえが育てたからといってもな、おまえに始末する権利はないぞ!あの虎だってな、寿命が尽きるまで生きていたかったさ。おまえが勝手に殺したんだろ!ただの自己満足だ!それを瑣末というんだよ!」

 卯浪の言葉に、源五郎は言葉も出ない。

 涼「卯浪よ、そのセリフ、そっくりあんたに返すぜ。説教できる立場かよ。」
 卯浪「涼、まさかお前まで…」
 涼「オレは行くよ。もうあんたらに会わなくてすむからな。あんたらは滅びるんだ。オレは向こうへ行って、せいぜい好き勝手するさ。」
 小瑠璃「ぶっ殺してやる、卯浪!」

 7人は精密検査のため、連れて行かれる。

 虹子「要さん、要さんの名字って?」
 要「…百舌戸(もずのと)」
 虹子「あの施設一帯の土地を持ってる大臣の名前と一緒ね。」
 要「祖父だ。」
 虹子「要さんが、死神になるの?」
 要「…いや、行く予定はない。」

 連れて行かれる安吾に、要は声をかける。

「安吾!頑張れよ!」

 呆然とする安吾の耳に、要の言葉は届いていない。安吾の表情を見た要は、何かを思う。

 空港で貴士を見送る要。そこへ、貴士の妻の美帆が赤ちゃんを抱いて現れた。

 貴士「名前を、『花』とつけた。」

 要はハッとする。

 要「…先輩?」
 貴士「この子もできたら行かせようと思う。」
 要「先輩!美帆さん!」

 美帆も覚悟を決めたような表情で、要を見つめる。

 貴士「おまえがこの子に、いろいろと教えてやってくれないか。僕は自分では、できそうにないんだ。なるべく、距離を置こうと思う。」
 要「先輩…でも、先輩、オレは、オレは、失敗したかもしれない。」

 安吾たちは眠りについた。
 成長した花を連れて、貴士と要はキャンプを張る。

 要「花は運動神経がいいな。物覚えも早いし。かなり気も強いけど。」
 貴士「おまえになついてるな。よく僕とおまえを混同する。もう少ししたら、本格的に勉強や訓練を…」
 要「先輩。花は、普通に育てるのがいい。普通に学校に行き、人に会い、好きなことをするといい。」
 貴士「なんとなくそう言うような気がしてたよ。」
 要「勿論、生きるための技術は、教えたらいい。体も鍛えるべきだ。でも、向こうで何が必要なのか、本当はわからないから。」
 貴士「ずいぶん弱気だな。自信満々で僕を誘ったくせに。『7SEEDS』プロジェクトは、おまえがかなり考えたんだろ、子どもの時に。」
 要「そう、分厚い企画書を作った。祖父と叔父が既に始めてたことに、はっきり方向性をつけただけだけど…自信があったんだけどね…」

 要の脳裏に、呆然とした7人の姿が思い出される。

 貴士「僕も、花を見てると、いろいろと思い出される。あの時、彼らにしたことを…花には到底できないだろう。」
 要「先輩、チームを一つ、増やそうかと考えてるんです。」
 貴士「春夏秋冬の他に?」
 要「そう、例えば、あれを夏のAチームとしたら、Bチームみたいな。それもまた、賭けみたいなもんです。」
 貴士「結果を誰も見届けられない賭けか…」
 要「ねえ先輩、自分が行きたいと思ったことは?」
 貴士「ああ、全然。僕は美帆と結婚したかったから。最期の時に、一緒にいられればいい。」
 要「先輩は幸せですよ。そういうことを、花に教えてやればいい。愛だとか、慈しみだとか。オレにはそういうの、わからないから。」
 貴士「わからなくはないだろう。美帆に惚れてるくせに。」
 要「何を言ってるんですか。花にそういう相手ができたら、一緒に送ってやればいい。」
 貴士「おまえ、そのBチームに入って、行く気なんだな。連中を、見届けるためか?」

―未来で、君たちははじめ、異物だろう。自然を知って、理解して、その中に混ぜてもらいなさい。そういうことを、彼らに教えてやれただろうか?彼らは何を夢見て、未来に行くんだろう―

 安居たちが目を覚ました。扉がいきなり開けられる。

 卯浪「目が覚めたか!全員並べ!ボヤボヤするんじゃないぞ!」

 7人は一様にギョッとする。

 涼「あんた…卯浪…なんでいるんだ…」
 卯浪「おまえらが腑抜けだから、お偉方が心配したんだよ。大人を一人入れろってさ。で、オレが選ばれた、要は反対したけどな。」

 小瑠璃が卯浪に銃口を向ける。源五郎と安居がそれに続く。

 卯浪「ふざけるな。お前ら、そういうキャラじゃないだろう。」

 卯浪が銃を取り出す。銃を握る卯浪の手に、涼が発泡した。

 涼「じゃあ、そういうキャラのオレが、やってやるよ。」

 虹子とあゆも銃を手に取る。

 あゆ「まだいるなんて、許せない。こんな汚いものが!すべて滅んだはずなのに!目障りなのよ!」
 涼「鷭、おまえは参加しなくていいからな。誰もオレたちを、裁けない。」

 安居たちは6人で、卯浪を蜂の巣にした。虚ろな表情のまま、7人は出発した。

===灰の章===
1【―その場所―】
 筏に乗って九州を目指す花と荒巻とハル。逞しく、この世界での知識が豊富な荒巻に、花は尊敬の念を抱く。陸地に着いた花たちを待っていたのは、ただ真っ黒な大地で、大量の火山灰が降っていた。
 シェルターに着いた花たちは、手紙を発見する。

―嵐くん、蝉丸、ナッちゃん、そして百舌へ。誰かが戻ってきた時のために、書き残します。数日前から灰が降り始め、あっという間に1メートル以上積もりました。そこから火が出て、山は燃え、水は汚れ、畑は埋まり、更に大雨が降って、地面は泥沼と化しました。とても暮らせそうにないので、移動します。灰は西からくるので、東の方へ。7つの富士の一つ、六甲山系の神戸富士(再度山)に向かってみようと思います。みんな元気で。また、会いましょう。牡丹―

 嵐がここにいないことを残念に思う一方で、花は手紙に出てくる「百舌」が、自分を殺そうとした男なのではないかと予感した。花たちも置き手紙を残し、東へ向かった。
 神戸富士のシェルター跡に着いた3人は、そこで秋のチームが作った村を見つけるが、そこも灰に覆われ、人は誰もいなくなっていた。花は嵐に向けて、置き手紙を残した。
 甲子園跡に立ち寄った荒巻は、そこで吹雪を思い出しながら、彼のキャップを土に埋めて、甲子園の土を持って帰った。ハルは、人の足跡を見つけていた。


===穀雨の章===
7【―美しき青きドナウ―】
 山でサバイバル生活を送る安居と茂。そこに偶然、鷭が現れた。薬が足りなくて薬草を取りに山に行っていた鷭は鉄砲水に飲み込まれず、無事だったのだ。「花札が示す方角のことなど、どうでもいい。」と安居たちの元を去る鷭。安居は、最終テストなのに大丈夫なのだろうかと、疑問に思う。
 山を歩く安居たちの前に、「前へ進め」などのサインが現れた。

―サインが出始めたってことは、要注意だ。生死に関わるテスト問題が、きっと待っている!―

 サイン通りに進んだ先には、今にも朽ちて落ちそうな吊り橋が掛かっていた。そこへ「安居のあとへついていけば楽チン」という、ちゃっかり四銃士が現れた。
 ロープを渡して安全策を取ろうとしたその時、後ろから山犬が現れた。犬は口から泡を吹き、水を嫌がり、様子がおかしい。狂犬病にかかっているようだ。
 ちゃっかり四銃士たちは慌てて橋を渡って行き、逃げ場のない安居と茂も、仕方なく橋を渡る。腐り堕ちた板に茂がはまってしまい、犬もすぐ背後に迫っていたため、安居は止む無く、なたで橋を切り落として茂を助けだした。犬は橋と共に川に落ちていった。
 橋を渡った先には、家が数軒建っていた。

―橋を落とすしかなかった。それは加点か、減点か。ここでどんなテストがある?何をどうクリアすれば正しい?どうしたら7人に選ばれるのか?―

 その頃、小瑠璃たちくりくり同盟は炭鉱跡に入るかどうか迷っていた。「仕方ないだろ、テストなんだから。」という鵜飼に対し、繭は「ちょっと待ってよ。こんな所にすぐに飛び込むのはバカよ。」と慎重だ。

 ちゃっかり四銃士たちは、家に入って保存食などを物色し始める。安居は一抹の不安を覚えていた。

―よく見るとイヤな地形だな…三方を崖に囲まれて、それを登らない限り出ていく道がない。唯一の道があの吊り橋だったのか、しまったな。―

 茂は二人乗りのシーカヤックを見つけてきた。川を観察する安居。さっき橋から落ちた山犬が、何かに喰われて早くも骨になっていた。

―源五郎の所に、ワニやピラニアもいた。この気候で生きていけるかどうかは知らんが。そいつに対処するのが、テストの問題か?―

 茂「いやだな…テストじゃなかったら、こんな所、絶対いたくないよ。」

 その言葉を聞いた安居の表情が変わる。ちゃっかり四銃士が歌う、「美しき青きドナウ」がふと耳に入る。

 茂「"美しき青きドナウ"だよね。子どもの頃、一時期よく昼休みに流されてた。」

 茂の言葉を聞いた安居は、何かが気にかかって記憶の糸を辿る。

―ある日、あの曲が聴こえてこなかった。要先輩も現れなくて、(涼と)呼びに行った。―

 安居「先輩、勉強会は?」
 要「ああ、ごめん。レコードの替え針を捜しててさ。何か好きな曲をかけてあげるよ。安居は何がいい?」
 安居「じゃあ、いつものやつを。」
 要「いつもの?"美しき青きドナウ"?あれは僕の趣味なんだけど、好きなの?」
 安居「好きってことはないけど、お昼はいつもそれでしょ。いつもそれだから、そうしないとへんだよ。」
 要「いつも通りだと安心するの?安居には決め事みたいに思えるのかな?」
 安居「だって、決まってるでしょ。」

―そうだ、そして、要先輩は言ったんだ。―

 要「はあん、なるほど、君は…誰も強制なんかしてないのに、強制されてると思い込んでしまうんだね。そこにルールがあると思うんだ。本当は、自分の好きにしていいんだよ、何もかも。未来に行ったら指示する人なんか、いないんだから。自分で考える癖をつけようね。」

―そうだ、涼は、それから自由気儘に振る舞うようになった。
 橋を、渡るしかないと思った。だって、テストだから。でも、不吉な気がしたなら、渡らないという選択肢もありえたんだ!それが自分で考えるってことだろ!―

 あたりを見回した安居は、家の2階に線状の汚れがついているのを目にする。以前そのラインまで水に浸かったという証拠なのだ。崖からは水が吹き出し始めている。
 安居は慌ててカヤックで川を下ることを茂に告げる。荷物をカヤックに積み始める茂。安居は中を確認するよう注意する。カヤックをひっくり返すと、毒グモが出てきた。

 安居「いいか!今後、確認なしに、足も手も、どこにも突っ込むな!」

 安居と茂は捨て身の覚悟で、川の上流には大きすぎるシーカヤックで川を下り始めた。ちゃっかり四銃士たちも、安居にならって避難の準備をし始める。カヤックに乗ったちゃっかり四銃士の足元から毒蛇が現れ、カヤックは川に沈んでいった。
 とうとう崖が土砂崩れを起こし、鉄砲水が流れてきた。必死で川を下る安居と茂。

―指示に従って命を落とすなら、従わなくていい。自分で決めるんだ。危ないと思ったら近寄るな。自分で判断して道を選び、危険を回避するんだ!涼たちはきっとわかってる。源五郎、マドンナ(あゆ)、小瑠璃、繭!間違うなよ。指示に従うな!テストの課題だと信じ込むな!危険だと思う所に行く必要はないぞ。この最終テストには、問題も正解も、ゴールすらないのかもしれない。きっとオレたちはただひたすら、生き残る道を見分けて進むんだ。―

 その頃、岩盤の検査を終えたくりくり同盟たちは、炭坑跡に足を踏み入れていた。

8【―月光―】
 廃坑に入ったくりくり同盟たちは、早速地面が落下して、下の通路に落ちてしまった。山崩れが起きたのだ。入り口に戻れなくなった小瑠璃たちは、仕方なく廃坑の先に進むことにする。
 不安が募った鵜飼は、「安居がオレたちをここに誘い込んだんだ!オレたちを殺して、7人に選ばれようと…」と取り乱す。小瑠璃も不安から、パニック発作を起こしかける。そんな小瑠璃の頬を叩いて、繭が言う。

 繭「落ち着いて、小瑠璃。しっかり息をするの!」
 小瑠璃「あたし…医療クラスなのに、気が付かなきゃいけなかった。一酸化炭素中毒なんて、わかりきったこと…」
 繭「そうだね、小瑠璃のミスだね。風車小屋にいた、全員のミスだよ。誰か気がつけば助かったんだよ。でもね、小瑠璃、聞いて。今も同じ状況だと思わない?風車小屋にいる時と、きっと同じなんだよ。何かに気がつけば助かるし、うっかりしたら死ぬかもしれない。銃の暴発も、ロープの事故も、一酸化炭素中毒も、注意してれば防げた。それをテストだと言うなら、今も同じだと思う。同じだよ、小瑠璃。今あなたにできることは、同じミスをしないことだよ。みんなはどう?選択クラスは何と何?何ができる?何に注意したらいいか、考えようよ。それともみんな、未来に行っても、こうやってじたばたするつもり?」

 繭の一言で、みんなが冷静さを取り戻した。進んだ先で、水たまりを見つけた鵜飼は、一人潜って探りに行く。そこには炭坑の地図と、銃が保管されていた。
 小瑠璃が見つけた出口に繋がる穴は、土砂で覆われている。協力して全員で岩をどかす。穴が開いて、真っ先に炭坑から出る鵜飼。次の瞬間、鵜飼の右目は熊の青葉に引っかかれて抉られてしまった。恐怖に駆られた鵜飼は、密かに持ってきていた銃で青葉を何発も撃つ。その銃声で脆くなった岩盤に亀裂が入り、土砂崩れが起きてしまった。
 瞬間、雹は繭をかばい、挟まれて動けなくなった草矢の助けに入ったあかざも共に、土砂に埋もれてしまった。あかざが叫ぶ。

「仕方ない、先生!どっかで見てるんでしょ、先生!オレ、もうリタイアするから!7人に選ばれなくていいから!助けて、先生!」

 その頃あゆはいじめっ子と共に行動していた。食事はあゆが作り、毒見をする。食後、いじめっ子二人は枝を削って箸を作り始めた。
 日が暮れ、夕食時。毒見役のあゆが無事食べ終わったのを確認したいじめっ子2人は、早速手作りのマイ箸で食事を取る。それを黙って見つめるあゆ。
 直後、2人は苦しみだして倒れた。

 あゆ「毒なんか入れてないわよ。わたしも同じもの、食べたでしょ。…ただね、あなたたちがお箸を作った枝に、毒があったのよ。…もう、聞こえない?」

 いじめっ子2人は、息絶えていた。

 足を骨折して動けなくなった日雀(ひがら)の前に、偶然源五郎が現れた。

 日雀「仕方ないから、リタイアしようと思って。先生に連絡とりたいんだけど、どうしたらいいのかな。」
 源五郎「どっかで見てると思うけど、どうかな。先生!先生!ケガ人です!」

 そこに卯浪が現れた。

 卯浪「リタイアはできないよ。」
 源五郎「リタイアはできない?どういう意味ですか。」
 卯浪「そのままの意味だよ。リタイアはなしだ。」
 源五郎「じゃあ質問を変えます。このテストはいつまでやるんです?どうなったら7人が決まるんですか?」
 卯浪「いつまで?どうなったら?7人になるまでだよ。」

 あゆは竦んだように座り込みながら、涙を流していた。後ろには満月。

―変だわね…もうちょっと、せいせいするかと思ったんだけど…悲しいんじゃないわ、良心の呵責ってやつかしら。そんなもの、わたしにあったのかしら。わたしは悪くないわ。わたしが殺したんじゃないもの。いかなきゃ、誰か来るとまずいわ。誰かに見つかる前に行かなきゃ。…足が動かない。ああ…そうか、ダメだわ。月が見ている。―

9【―乙女の祈り―】
 一人、はぐれていた小瑠璃は、何とか廃坑から抜けだした。すぐさまモールス信号を送る。

 小瑠璃「こ・る・り・は・ぶ・じ。繭ちゃんは?小瑠璃は外に出た。繭ちゃんは?」
 繭「ま・ふ・も・ぶ・じ。雹くんと一緒にいる。」

 鵜飼も廃坑を脱出していた。しかし右の眼球は抉られて、無い。

―視力が落ちてもダメなのに、これじゃもう、選ばれない。安居は、どこだ?―

 鵜飼は、安居に復讐することだけを考え始めた。

 源五郎は、一旦日雀を置いて、食べ物探しに出た。背後から日雀の悲鳴が聞こえる。戻ると、日雀の姿はなく、血が溢れ、その血に肉球の跡がついていた。日雀は虎の端午に襲われたのだろうか…。源五郎は青ざめる。

 朝になり、目を覚ました小瑠璃は、自分が今にも崩れんばかりの山に取り残されたことを知る。小瑠璃は鏡を使って、モールス信号を送った。

 小瑠璃「どうしよう、繭ちゃん。そっちまで行く方法がない。どうしよう。」
 繭「こっちからも行けない。なんとか考えて。小瑠璃ならできるよ。大丈夫。頑張って、小瑠璃!大丈夫、出来るよ、小瑠璃には、なんだって出来るよ。」

 小瑠璃を元気づける繭。しかし繭の下半身は、土砂に潰されていた。繭を庇うように覆いかぶさって、雹も土砂の下で動けない。あばらも折れている。
 涙を流しながら、小瑠璃は雹に語る。

 小瑠璃「小瑠璃とのばらと3人で、未来に行けると信じてた。誓いのミサンガなの、これ、3人の。」
 
 繭の黄色いミサンガが切れた。

 雹「ミサンガは、切れるときに願いが叶うって言うじゃん。」
 繭「そうだね。もう…行けない。」
 雹「小瑠璃が、僕らの代わりに、きっと行くよ。」

―未来はどんなだろう。どんな世界だったろう。小瑠璃と行きたかった。小瑠璃、早く来て。もう一度会いたい。あなたに、未来でも頑張ってねって、ちゃんと言いたい。―
 
 小瑠璃「繭ちゃん、どうしよう。」
 繭「作れば?小瑠璃、ハンググライダーを。大丈夫だよ、小瑠璃なら出来るよ。頑張って、小瑠璃!!」

 小瑠璃は廃材を使ってグライダーを作り始めた。廃材の中からオルゴールも見つけた。〈乙女の祈り〉がかかる。
 夜になって、風が出てきた。

 小瑠璃「繭ちゃん、これから飛びます。ずっとライトをつけておいてください。」
 繭「了解。気をつけて、小瑠璃。」

 小瑠璃は飛び立った。

 鷭に川から助けだされた安居と茂は、小瑠璃と繭のモールスのやり取りを見ていた。

10【―組曲〈惑星〉より火星―】
―気をつけて、小瑠璃。大丈夫、きっとできるから。他の誰にできなくても、あなたにはできるから。小瑠璃、見えるよ。あなたはいつも、白くてかわいい、鳥のようなの。―

 瞬間、繭のライトが消え、小瑠璃は焦る。しばらくして再び、ライトがついた。

 「こ・る・り あと少し、頑張れ!」

 小瑠璃は無事に、着陸した。しかし、そこで小瑠璃が見たものは、繭が岩に押し潰され、息絶えた姿だった。一瞬にして青ざめる小瑠璃。

 雹「小瑠璃…大丈夫か…?繭ちゃんは…つい…さっき…」

 繭に心臓マッサージを施す小瑠璃。

 小瑠璃「先生!誰か来て、助けて、先生!誰か、この岩をどけて!!繭ちゃんを助けて!!」
 雹「小瑠璃…あかざもそう叫んでた。先生は来なかった。みんな…埋まったんだ。小瑠璃…繭ちゃんは頑張ったよ、落ち着いてた。ずっと…苦しかったと思うけど…でも…もう、楽になった。小瑠璃…繭ちゃんから伝言だ。未来へ行っても、頑張ってねって。小瑠璃には、なんだってできるから、大丈夫だから…って。僕も、そう思う。小瑠璃…未来で、生きろ…」

 繭のミサンガを託し、雹も息を引き取った。発狂せんばかりに号泣する小瑠璃の元へ安居が現れ、小瑠璃を抱きとめる。

 小瑠璃「のばらちゃん、のばらちゃんどこ!のばらちゃんに知らせなきゃ、のばらちゃん、繭ちゃんを助けて!」
 安居「のばらはもう、死んだ!この赤いミサンガは、のばらのだろ。覚えてるか、オレが卯浪を殴って、特別な懲罰房に入れられた。そこにのばらはいたんだ。いや、正確には、のばらの片腕だけだ。ほかは、家畜の臓物とぐしゃぐしゃにされてた。のばらだった。のばらは死んでた!先生たちに殺されたんだ!脱落した連中は、全員そうなったんだ!外に出てなんかいない!のばらも繭も、風クラスの3バカも、先生たちに殺された!他にもあちこちで、何人も死んでる!今も!だから!…だから!しっかりしろ、小瑠璃…!」

 動物たちに喰われないよう、小瑠璃と安居と茂は、繭たちの遺体を土で埋めた。そして繭は、安居の制止も聞かず、何かを思いついたようにグライダーで飛びさって行った。

 「追いかけるぞ!」という安居に、茂は抵抗する。

「命令しないでよ。いつもいつも、僕に指図して。やっとわかった。あの時様子が変だったのは、のばらを見たからだったんだ。どうして言ってくれなかったの、一番の友達なら!どうして源五郎の肩で泣いたりしたんだよ!安居は僕を、対等の友達だと思ってない。僕が岩を登る時、安居はビレイヤーをしてくれる。でも安居が登る時、僕にはさせない。僕を、信用してないから。僕はパートナーじゃない。いつでも安居より下で、子分なんだ!僕は安居に見下されたまま、たまたまくっついてたからって、7人に選ばれるのはイヤだ!」

 そう言って、茂もまた、一人で去っていった。

 川縁で鷭と遭遇した源五郎。鷭は涙を流している。熊の青葉が銃で撃たれて血を流し、息絶えていたからだ。青葉の亡骸を抱きしめ、青ざめながら涙を流す源五郎。

 安全な場所で高みの見物を決め込む涼と虹子の元にも教師たちの罠が迫る。どこからか、風向きによって〈火星〉が聴こえる。教師たちは、涼たちの周囲を焼き討ちにし、2人を火が取り囲む。涼たちも移動を開始した。通りかかった川で、ワニに襲われる小瑠璃を発見した涼は、小瑠璃を助けだす。
 小瑠璃は青い顔をして言う。

 小瑠璃「先生たちはどこ?ぶち殺してやる。」
 涼「面白いな、オレもつきあうぜ。」

11【―組曲〈惑星〉より木星―】
 虎の端午を捜して回る源五郎。出くわした生徒たちが、端午が人を襲っていると言う。

―テストなんか、どうでもいい。早く見つけないと。青葉を殺したヤツが、銃を持ってる。そいつより早く、見つけないと。端午…絶対におまえを、殺させない!―

 涼たちはまた、音楽を聴く。ホルストの惑星〈木星〉だ。音のする方へ行くと、海が広がっていて、そこには座礁した廃船があった。「先生のアジトなのかもしれない。」と船に乗り込んでいく小瑠璃。情報がほしい涼は小瑠璃についていくが、虹子は「恐ろしくやばい感じがする。」とついていかない。
 斧を持って船内を破壊して回る小瑠璃。そこへ卯浪が現れた。

 卯浪「喜べ、小瑠璃。風のクラスは減りが早くてな。おまえが残る可能性大だぞ。」
 小瑠璃「卯浪…のばらちゃんを、殺したの…」
 卯浪「脱落した連中をいちいち覚えてないが、直に手を下したわけじゃないよ。眠らせて装置に入れて、攪拌したんだ。そういえば、途中段階を安居に見せたな。あいつ、一晩中叫びまくってたが、自分の立場を理解して、一皮むけて強くなったよ。だからお前も、これをバネに強く…」

 卯浪の言葉を最後まで聞かず、小瑠璃は卯浪に襲いかかる。その刹那、床の落とし穴の蓋が空き、小瑠璃は落下した。

 卯浪「我々もいろいろ大変なんだよ。男ばっかり、女ばっかり残っても困るし。バランスよく選ばないとな。そこでしばらく、頭を冷やせ。」

 その様子を陰から涼が見ていた。船を進む涼の目に、無造作に置かれてこぼれている火薬とガソリンが目に入る。無視して先に進んだ涼がはしごから足を踏み外すと、頬が切れた。あたりじゅうに、ギザギザに加工されたワイヤーが張り巡らされている。
 突然、船が揺れだす。満潮が近づいてきたのだ。先程見たガソリンや火薬、それに火を思い出した涼は、慌てて逃げ出そうとする。そこへ後ろから貴士が迫り、涼の首をロープで締めた。
 なんとかロープから逃れた涼に、貴士はナイフで襲い掛かる。思わず後退りした涼は、ワイヤーで体中を怪我してしまう。ナイフとロープを奪い、反撃した涼は、貴士を追い詰める。しかし、殺すことが出来ない。

 貴士「殺せ。僕は殺す気だぞ。殺さないと、また襲う。どうした。紙に描いた人形なら、気軽に撃つだろう。いつもオレは迷わず殺すと、言ってなかったか。口ばっかりか、涼。」
 涼「今はそれどころじゃないんだよ。船が爆発する!小瑠璃はどこだ!」
 貴士「小瑠璃は我々が確保した。風のクラスがもう他にいなくなりそうなのでね。」
 涼「クラスに、一人か。」
 貴士「7つのクラスにひとりずつだ。残りが一人になった時点で収容する。」

 貴士は船から脱出していく。

 涼「おい待て!オレがあんたを殺してたら、それは加点か、減点か?」
 貴士「加点だ。見掛け倒しだったな、涼。」

 救命ボートで現れた虹子は、涼を乗せて船から遠ざかる。直後、船は爆発した。涼は呆然としながら思う。

―クラスに一人。オレと安居と茂は、同じ火と水のクラス。二人だけだ。3人ともは、選ばれない。…オレはいつか、人を殺すんだろうか。―


===穀雨の章===
1【―ワルキューレの騎行―】
 ワーグナーの「ワルキューレの騎行」が大音量で鳴り響く。毎朝の起床の合図だ。
 一斉に沢山の少年・少女が起きだす。朝の食事で教師の卯浪(うなみ)が言う。

「おはよう、わたしの大事なこどもだち。具合の悪い者はいないかね。君たちは選ばれた子どもである。厳選された卵子と、厳選された精子から生まれた、非常に特別な子供たちである。何故特別か。君たちには使命があるからだ。この国の未来を救うという高潔な使命だ。そのために君たちは身体を鍛え、多くを学び、完璧な人間を目指さなければならない。どんな環境に置かれても、生き抜く知恵と力を身につけねばならない。ダメな者は容赦なく脱落させる。いいか!君たちはノアの方舟に乗れる、選ばれた人間なのだ!」

 子どもたちは日々陸上や水泳、クライミングの訓練をし、気象など多くを学び、自分で畑を耕し、集団で自給自足の生活を送る。

安居(あんご)―そう、僕たちは生まれた時からここにいる。はじめはもっと大勢いたと思う。どんどんいなくなり、今は百人を切った。僕らが17歳になった時、この中からたった7人が選ばれる。―

 常に成績優秀で真面目な安居は、兄弟のように仲が良く、少し頼りない茂の面倒をよく見ている。そんな茂に、成績優秀でありながらしょっちゅう懲罰房に入れられている涼が、何かにつけてちょっかいを出す。小瑠璃、繭、のばらの少女達3人組も仲がいい。

―気がついた時には左隣にはいつも茂だった。ちなみに右隣は小瑠璃だ。僕らは一緒に大きくなった。これからも一緒に行く。みんな一緒に選ばれよう。な!茂。―

 登れなければ脱落させられるクライミングのテストに、クライミングが少し不得手な茂が挑み、安吾は精一杯応援する。

―僕らには親はない。名字もない。ここで育った。脱落したらどこに帰るのか。帰るとこなんか、どこにもない。僕らには。―

 安居との練習の甲斐もあってか、茂は合格した。

―消灯の合図には、ドヴォルザークの「家路」が流れる。時々、要先輩が一人で(トランペットで)セッションをする。家路…。僕らは、どこに帰るのか。

 僕らは13になった。本当の試練が始まった。―

2【―ペール・ギュント組曲・朝―】
―オレたちの名前には、夏の季語が入ってるんだって。要先輩が秘密を打ち明けるように、そっと言った。…意味はわからない。
 7つの専門クラスが作られ、その中から2つを選択することになる。―

○火のクラス…火の起こし方から使い方、燃料について。火薬の使用法から、各種武器の扱い。狩猟や格闘技の訓練。炭焼きから、鍛冶・陶磁に至るまで、火に関して学ぶ
○水のクラス…飲水の確保から、治水・灌漑・下水、水質について、汚染について、地下水について、水車など水力の利用、海についても学ぶ。
○風のクラス…天文・地理・気象について、風と空気について、風車など風の利用について、各種の自然災害について学ぶ。
○土のクラス…土木・建築について、地層・鉱物・石の見方とその使い方、農地の確保、土壌の育て方、火山活動、地震について学ぶ。
○動物のクラス…家畜の飼い方から病気について、そのさばき方とあらゆる部位の利用の仕方、生態系と環境、猛獣の特性から撃退法、昆虫や魚についても学ぶ。
○植物のクラス…農耕全般や植物の採集、生態系と環境、薬草や毒草について、樹木について、きのこや海藻について、それらの利用法・栽培法を、堆肥作りも交えて学ぶ。
○医療のクラス…応急処置などは全員が習うが、それ以上の医療全般をみっちり学ぶ。

 安居・涼・茂は火と水のクラスを選択し、小瑠璃は風と医療クラスを選択することにした。貴士先生が新たに現れ、安居たちに格闘技を教え始める。貴士と要は大学の先輩・後輩の仲だ。

―要先輩は不思議な存在だ。教官じゃなくて、世話係みたいな感じで、オレらより4コ年上らしい。何でも知ってて、何でも聞けば教えてくれる。教官たちも一目置いてるみたいで、不思議なスタンスだ。オレはちょっと、目をかけられてる気がするな。
 17歳になったら7人が選ばれる。なぜなら人類は滅びるから。ここで選ばれた7人が天変地異の続く間冷凍保存され、未来の滅びた地球に立つ。新しい歴史を作るために。オレは必ず選ばれる。栄光ある選抜隊に。そうでなければ、ここにいる意味がないんだ!―

 今月のトップ賞が発表された。動物クラスの源五郎と、植物クラスのあゆだ。美しいあゆは、一部男子の間で「マドンナ」と人気の的だ。今までは常に安居と涼がトップを取っていたのだが、ここにきて他の生徒たちも著しく伸び始めた。
 風クラスでグライダーの練習をすると小瑠璃から聞いた安居は、少し羨ましく思う。

―空から何が見える?外の世界が見えるか?外の世界。それはテレビの中だけの世界だ。オレらはお金を使わない。コンピュータも教わらない。必要ないからだ。オレらが外に出る時には、今の文明は滅んでいる。時々、1人2人と脱落者が出る。彼らはどこへ行くのか。今外へ出て、なじんでいけるんだろうか。

 起床の曲がワーグナーからペール・ギュント組曲の「朝」に変わった。オレたちは15歳になった。全員に射撃の訓練が始まった。―

 安居と涼は、射撃で優秀な成績を取る。一方でのばらは、運動神経がいいにも関わらず、中々弾を的に当てることが出来ない。色違いでお揃いのミサンガを作ったのばら・繭・小瑠璃。繭と小瑠璃はのばらの応援をする。

―食事作りは当番制だ。全員が料理を学ぶ。―

 ある日、何かにつけてつっかかってくる涼と安居が喧嘩をした。罰を受けながら、二人は話す。

 安居「涼、オレにはどうも理解できないんだけどさ、おまえ、時々7人に選ばれたくないのかと思うよ。先生には逆らうし、ケンカもするし、態度も悪い。」
 涼「お前に教えてやる義理はないけど、オレは様子を見てるのさ。選ばれる基準がわかんないだろ。おまえもバカじゃないんだから、考えろよ。事情が事情なんだからさ。おとなしく言うことを聞いてルールを守る優等生が選ばれるかどうかわかんないだろ。その証拠に、オレは懲罰房に22回入ったけど、まだ残されてる。オレは様子を見てるのさ。だから当然、茂なんかはダメだ。それにかまうお前もな。でもまあ…おまえはオレと同類の臭いがするから、もしかしていけるかもな。」

―選ばれる基準…まじめで成績が良くて、面倒見もいい、いい子…じゃダメなのか?―

 ある日射撃の成績が一向によくならないのばらが卯浪に呼び出された。視力検査を受けるのばら。

 卯浪「視力が落ちてきてるな。だから弾丸が当たらない。残念だがどんなに優秀でも、目の悪い者は残せない。近視の遺伝子は排除する。脱落だ。」

 仲良し3人組ののばら・繭・小瑠璃は涙する。そしてのばらは、要に連れられて施設を去っていった。

3【―ユーモレスク―】
 茂が今月のトップ賞に選ばれた。安居を追い抜いてしまったことに遠慮する茂は、安居に「ごめん」と謝る。そんな茂に、安居は苛立ちを覚える。
 涼は水・土クラスの虹子と付き合い始め、いつも二人で行動をするようになった。
 始業10分前のユーモレスクが鳴る。行動を促しに来た要が、次々と生徒に問題を出す。
「安居に質問!排水の方法を3つ述べよ。小瑠璃!雨になる塔状雲を4種答えろ。茂!アルキメデスの揚水ネジの原理は?源五郎!白アリの害と益について生活環に応じて述べよ。涼!薪に適する木と適さない木は?繭!赤土から取り出す鉱物は?」

―最近、要先輩は顔を合わすと質問攻めにしてくる。一般教科も(川幅の計測法など)実践的になってきた。毎日が抜き打ちテストだ。いきなり襲われたりもする。かと思えば、「断水中。水を調達せよ。」だったり、「ガスも使用禁止」だったり。他にも部屋に毒ガエルが放たれていたり。こんな感じで、気の休まる暇がない。―

 ある日、レンゲ畑で作業をするあゆに見とれる安居。思わず「きれいだな。」と言葉が口をつく。

 あゆ「安居くんまでそんなこと言わないでよ。わたしまた、いじめられるから。馬鹿ばっかり!早く未来に行きたいわ。馬鹿がみいんな、滅んだあとの世界にね。」
 安居「先生に言ったか?オレが言おうか?」
 あゆ「あなたも案外馬鹿なの?普通の学校じゃないんだから。いじめる側と、いじめられる側と、先生はどっちを残すと思う?余計なことしないで。」

 安居の様子をみる貴士と要。
 貴士「お前のお気に入りは、なんだか迷ってるな。」
 要「逃げ道を探し始めた。まじめに人の意見を聞きすぎる。それはいいとこでもあるんだが、ここでは短所だ。」

 ある日、実戦形式の射撃訓練が行われた。人の描かれた的でも平然と撃つ涼に対し、安居はその真面目さからか、撃つことが出来なかった。

 卯浪「予想通りか。」
 要「ですね。安居には、もう一つ突き抜けてもらわないと。荒療治が、必要でしょう。」

 ある日、作業中に恋愛話で盛り上がる安居と小瑠璃。そこに卯浪が現れ、小瑠璃の胸を鷲掴みにして言い放った。

「色気づいてる場合か?こんな貧弱な胸で!お前初潮もまだなんだろ。いいか、いくら優秀でもな、子どもの産めない女は、決して選ばれないからな!」

 激怒した安居が、ナタを振り上げて卯浪に殴りかかる。安居は罰として、家畜などの血や臓物の貯められた大きな壺に落とされた。そこで安居は、人間の手首を発見する。3人組の友情の証のミサンガをつけた片腕を。

 その頃、虹子と涼は教官室に侵入し、コンピュータの中を物色していた。

4【―我が祖国・モルダウ―】
―のばら(のミサンガ)は、赤。のばらは、外へ出たはずだ。のばらは、赤。赤く見えるのは、ライトのせいか、血のせいか。のばらは、外へ出たはずだ。オレたちの知らない、外へ行って、先に出た連中と、それなりに楽しく、やってるはずだ。―

 臓物と血の壺に浮かぶ手首の爪は、のばらがいつも噛んでいたのと同じく、極端な深爪だ。安居が掴むと、手首は裂けて崩れ去った。近くに人間の髪の毛も沈んでいた。安居は涙を流しながら、発狂した。

 PCを漁る虹子は、7SEEDSプロジェクトのファイルを見つける。夏のチームが、自分達のことらしい。教官のページをくまなくチェックするが、要のことだけはどこにも載っていない。全くどうでもいい人物か、それとも非常に重要な人物か…。
 そこへ貴士と要が現れ、虹子と涼は急いで物陰に隠れる。

 貴士「それで、他のチームはやっぱり一般から選ぶのか?」
 要「そうなるだろうね。まだ先だよ。XDAYぎりぎりになる。」
 貴士「ここから全部選べばいいじゃないか。」
 要「ダメダメ、貴士先輩。同じ環境で育ったものは、一つの原因で全滅する恐れがある。それに全体の中の一部が優秀ってのが、バランスいいんだよ。…まあ、その場合、『死神』をどこかに一人、入れるべきだと思ってる。」
 貴士「その説には賛成しかねるけどな…ああ、それよりここの最終テスト、ほんとにあんな形でやるのか?」
 要「やる」
 貴士「死人が出るんじゃないのか?」
 要「出るだろうね。」
 貴士「優秀選手が死んだらどうする。」
 要「死んだら優秀じゃない。生命力が試されるんだ、先輩。我々は生き残る力のある者だけを、ノアの方舟に乗せる。」

 誰かが部屋に忍び込んでいるのを知って、敢えて貴士は要に最終テストの話をさせた。涼と虹子は驚きながらも、覚悟を決める。卯浪は、監視カメラでシャワー室をチェックし、女子生徒の裸を見て寸評していた。

 罰が終わり、呆然自失した安居が壺を出る。シャワーを浴びて、手首から取ってきたミサンガの地の色を確かめる。のばらがつけていた、赤いミサンガだった。安居は憔悴しきって、涙を流す。
 安居は、のばらが殺されていたことを繭や小瑠璃に言えないでいた。脱落した者は容赦なく殺されることを知った安居は、茂によりいっそうの努力をするように厳しく言いつける。

―のばらは、外へ出なかった。今まで脱落した連中も、きっと外へ出なかった。砕かれ、混ぜられ、土に撒かれ、オレたちのエサになった。オレたちに外はなかった。7人に残らない限り、生きてここを出られない。7人に残らない限り。
 風景がきのうまでと違って見える。考えよう。いつも考えるんだ。注意深くならなければ。神経を、研ぎ澄ませろ。―

 日替わりのように、トップが変わる。医療クラスでは、いつものっそりしている鷭(ばん)が伸び始めた。安居はもう、射撃訓練でも躊躇することなく、人型の的を撃つようになっていた。

 ある日、クライミングの練習をする安居は、崖を登った先で貴士が木彫りの虎を彫っているのを見かけて話しかける。

 安居「先生、ここで学んだことって、未来で役に立つと思いますか?」
 貴士「それは、行ってみないとわからないね。」
 安居「貴士先生は、行きたいと思いますか?」
 貴士「僕は行かない。こう見えて新婚なんだ。学生結婚でね。来年子どもも生まれるし。…安居。最終テスト、注意力がテーマだ。」

 帰り道、安居は一枚の花札が落ちているのを発見する。他の生徒達も、あちこちに落ちている花札を見つけていた。
 
 水と風のクラスで船の実習が行われた。茂は船酔いをし、弱音を吐く。そんな茂を、安居は叱咤する。

 安居「頑張れ!本気で頑張れ!でないと、でないと!脱落したら…死ぬんだ!」
 茂「そうだよ、みんな、人は滅びるんだよね…安居、人の的を撃つよね?未来で人を撃つの?それができなきゃ残れないんなら、僕…無理だと思う。」
 
 船上に「我が祖国―モルダウ―」が流れる。夜、海岸線の街明かりを見て、安居は思う。

―オレたちに、祖国はない。あそこに暮らす人々は、オレたちとは別物だ。幸せに暢気に、家族と一緒に…ある日、滅びを知るまでは。滅びてしまえ、のばらのように。オレたちは生き残る。オレたちだけが、生き残るんだ。―

 安居たちは17歳になった。

5【―別れの曲―】
 近頃、第一校舎の床が軋むようになっていた。

―最終テストは、傾向から見て、前もって教えてくれるとは思えない。きっとある日突然言われるんだ。冬が近い。今年も多少は雪になるだろう。―

 近頃、小瑠璃の中ではモールス信号がマイブームらしく、頻繁にモールスで安居に話しかけている。突然、校舎の窓が光った。安居は光の元へ走りだした。

―気になることは、チェックすることにしてる。注意力、注意力。―

 同じように、窓際の光が気になった源五郎と涼も現れた。窓際には、水の入った金魚鉢が置かれていた。陽にあたって火事になってはマズイと、安居は急いで金魚鉢をどかした。
近くには、こないだ貴士が彫っていた木彫りの虎が置かれている。動物舎には牛の木彫りが置いてあったと、源五郎は言う。それを聞いた涼は表情を変えた。
 涼は更に排他的になり、食事も皆と一緒に取らず、虹子と二人でバーベキューをするようになっていた。授業にさえも、出てこない時がある。

 ある朝、食事当番を押し付けられたあゆは、うさぎの木彫りを見つける。その後覗いた食材の中には、毒草が混じっていた。

 射撃の授業に来た涼は、蛇の木彫りを見て「サボる」と言って出ていった。撃つ前に銃を分解してチェックする安居。銃身にヒビが入っていた。そばにいた生徒に注意を促したが、時既に遅く、撃った生徒の銃が暴発し、手首がはじけ飛んだ。
 血を見てのばらを思い出した安居は身がすくんで動けず、近くにいた医療クラスの生徒も行動できずに放心状態だ。そんな中、鷭だけが迅速に手当を行った。

 クライミングの授業。道具を点検する安居は、茂のロープが変色しているのを発見し、慌てて注意する。束の間、他の生徒のロープが途中で切れ、生徒が崖から落下した。馬の木彫りが置かれていた。

 食事当番の朝、安居はあゆが食材チェックをしているのを見つける。安居を呼んだあゆは、食材に紛れ込んだ毒ゼリを見せた。以前食材に毒草が混ざっているのを発見してから、あゆは毎朝、食材のチェックをしていたのだ。安居は、涼と虹子がバーベキューをしていた理由を知る。その日から、安居は茂、小瑠璃、繭、源五郎を誘って、涼たちのバーベキューに参加することにし始めた。

 その日の晩、要は小瑠璃たち風クラスの生徒に、故障した風車の修理を命じた。いやな予感がする安居は、小瑠璃に注意を促す。
 夜、風車小屋に行った小瑠璃たちは、そこに七輪や、食事が用意されているのを見て喜ぶ。外が寒いため、4人は窓や戸を全て閉めて作業をした。修理を終えた4人は、そこで夜食を取り、居眠りをしてしまった。
 目を覚ました4人は、異変に気付く。息が苦しく、手もしびれて動けない。一酸化炭素中毒にかかってしまったのだ。3人は最後の力を振り絞って、体の小さな小瑠璃だけを水汲み水車の穴から落して、風車小屋から脱出させた。
 川を流れてきた小瑠璃を助けだした涼は、安居にモールスで小瑠璃の異変を知らせる。風車小屋の3人は、既に事切れていた。

 更に数日後の夕方、水の事故が起こった。増水した川縁の排水口に2人が落ちたのだ。川縁には、猿の木彫りが転がっていた。

 晩、ふと思いついた安居は、モールスで小瑠璃に尋ねる。「風車小屋にも木彫りの動物があったか?それはなんだ?」小瑠璃からの答えは「ねずみ」だった。
 安居はこれまでの事故が、木彫りの十二支の動物が差す時刻に起きていたことを知る。これらが仕組まれた事故であった事を悟った安居は、以前金魚鉢の傍に放置していた虎の木彫りが示す「寅の刻」が近づいていることに気付き、慌てて部屋を出てチェックに向かう。同時に同じ事を思いついた源五郎が現れ、動物舎をチェックしに出ていった。
 安居が廊下を走っていると、突然、金魚鉢の置かれていた部屋が爆発、炎上した。消火しようとするが、水も出ず、消化器も空になっている。先生もいなくなっていた。慌てて避難を促して回る安居。
 その頃、動物舎に行った源五郎は、すべての動物が放たれているのを目撃していた。
 どこか遠くでショパンの「別れの曲」が鳴っている。安居の目に、完全装備で避難を始める涼と虹子の姿が入る。

―オレはバカだ。どうして気付かなかったのか。始まってるんだ。最終テストは、もうとっくに、始まってたんだ!―

6【―アヴェ・マリア―】
 建物から逃げてきた繭と小瑠璃に、安居はこれが最終テストであることを告げる。安居からのモールスを受けていた小瑠璃たちは、不測の事態に備えて、装備を整えて出てきていた。一方、茂はパジャマ姿のままだ。源五郎もまた、これが最終テストであることを悟り、装備を整えて出ていった。
 メインの施設は全て燃え、残った第一校舎に生徒たちは避難した。炭焼き小屋に装備を整えに行った安居は、途中、畑が荒らされているのを目撃する。

 あゆ「安居くん、今気付いたんだけど、これって最終テストよね?」
 安居「だと思う。」
 あゆ「そう、よかった、嬉しいわ。これで全てが決着するんだもの。」

 炭焼き小屋で装備を整えた安居の元に、遅れて鵜飼が現れて装備を分けてくれと頼んだが、安居は拒否した。憤る鵜飼に、安居はなたを手にかけ、脅しをかける。
 虎の端午や熊の青葉を探す源五郎と出会った安居は、動物舎の猛獣や、毒を持った昆虫や蛇が放たれたことを知らされる。
 第一校舎についた安居は、校舎に入らないように他の生徒を促している繭を目撃する。地盤がゆるみ、地面に亀裂ができている。元々沼地だったところを、上流にダムが作られたことで水を抜いて作られたこの施設の土地の地盤は脆弱なのだ。第一校舎の床が軋んでいたことを思い出した安居は、校舎にいる茂を慌てて呼びに行く。そして茂の手を引いて校舎を出た直後、第一校舎は大きく崩れ去った。
 大勢の生徒が校舎の下敷きになり、大量の血が流れる。そんな中、アヴェ・マリアの歌声がした。

 落ちていた花札に、最終テストのヒントがあると思いついた安居は、花札の数字が示す方角へ行くことを提案する。生徒たちは、それぞれの方向に向かって旅立った。
 安居と茂が一緒に崖を登っていると、目の端に山肌を走る水の迸りが見えた。上流のダムが決壊したのか、させたのか…水は施設一体を飲み込んだ。残った生徒は水に飲み込まれただろう。安居は涙を流した。

 小瑠璃と繭はくりくり同盟(天パ組)と行動していた。山で「まっすぐ進め」というサインを見つけた小瑠璃たちの前に、古びた炭鉱跡が現れた。


 捕らえた貴比古に、協一郎はスミスの日記の在り処を問い詰める。幼い頃から凛を利用し続け、人としての幸せを与えずに育てた雨宮を、貴比古はなじる。貴比古の言葉に動揺した凛は、貴比古に銃を向けた。
 静は貴比古を助けるために雨宮の元を訪れ、クロサキたちに貴比古の救出を依頼した。
 その頃、シン・スウ・リンは静や凛について調べ、二人が遺伝子操作された新人類であることを突き止めていた。
 雨宮に協力する自衛隊の桜井は、静を政府の監視下に置くことを主張するが、雨宮はその申し入れを突っぱねる。

 雨宮の家で、取り壊された蔵跡を訪れた静は、凛の幼い頃の恐怖の記憶に飲み込まれ、倒れてしまう。その蔵で凛は虐待を受け、祖父を殺したのだ。静と同時に、それ以上のダメージを受けて倒れてしまった凛の元に静が現れ、息の根を止めようとする。しかし、「兄さん、来てくれたんだね、待ってた…ずっと。」と涙を流しながらうわ言を話す凛に、静は止めを指すことが出来なかった。そこへ、凛を愛して守ろうとする尊が現れ、静を止めた。

 静に何かの薬を大量に投与し、生きる屍のような状態にさせた雨宮と凛は、飛行機で静を移送する。
「これでは知的労働は一切期待できないよ。」
 と言う凛に、雨宮は、
「最近それでもよいのではないかと思うようになった。それも一つの選択ではないかと思っている。」
 と答えた。利用価値がない静に執着する雨宮に、凛は驚き、傷ついたように考えこむ。愛する比佐子の生んだ静を手元においておくことに、雨宮は満足感を覚え始めていた。