===灰の章===2【―水草の如く―】
足跡を辿っていった花たちは、地下鉄の構内に辿り着いた。人の声がする方に走っていった花たちは、そこで水場の所有権を巡って武器を持って争う蘭と流星・十六夜を目撃する。
蘭は去っていき、直後、地下鉄構内が崩れ始めた。十六夜に連れられて脱出した花たちは、そこでくるみと茜に出会った。抱きしめあう流星とくるみの姿に、ほのぼのとする花。
潮が満ちてきて、海女の茜は、海に食べ物を採りに出る。花もついていくが、とても茜には敵わない。花が潜った先には、奥深くまで続く、立体駐車場跡があった。
夜になり、ハルは流星たちに人質にとられた。流星は花に、「ハルを人質に取ったから、ボートで駐車場の向こうの穴を探ってきて欲しい」と頼む。怒りながらも花と荒巻はボートに乗って探りに出た。心配した十六夜も、花たちに加わった。
3【―森は生きている―】
ボートに乗る花たちに、蘭・秋ヲ・朔也が襲いかかり、ボートを奪って去っていった。泳げなくて溺れる荒巻を、犬の吹雪と美鶴さんが加えて、岸まで引き上げる。
そのまま洞窟の先を進む道中で、花と荒巻は、くるみが流星の子どもを妊娠したことから秋のチームが分裂したことを十六夜から聞いた。蘭と秋ヲは、自分達をここに送った連中を、心底憎んでおり、出産に反対したからだ。
花たちは、巨大な換気扇を発見した。その先にはライトがつけられ、植物が異様に育っている。荒巻はここは畑で、避難シェルター跡なのではないかと推測した。
その頃蘭たちも、別の入り口からシェルターに入り、「夏のセクション」と名付けられたコントロールルームに入って、PCをいじっていた。地図を見た蘭たちは、春のセクションに居住区が、秋のセクションには畑が、冬のセクションには貯蔵庫があり、このシェルターの名称が「龍宮」であることを知った。早速蘭たちは冬のセクションに向かった。
一足先に冬のセクションの扉の前に来ていた花たちは、ドアが大きなバツ印で閉じられているのを目撃する。異様な雰囲気に、花たちは冬のセクションの扉を開けずに、別の場所へ移動した。
夏のセクションの扉の前に着いた花たちは、そこで日記を持って干からびているミイラを発見した。
4【―夏への扉―】
花は日記を読み上げた。最初の日付は、花たちが眠らされてしばらく後の日付だ。
―えらいことになった。日記とかつけたことないけど、なんか書き残しといたほうがええような気がするんで、書く。今思たら、あの日が運命の別れ道やったんやな。―
お笑い芸人のマークは、ピートという人形で腹話術を披露していた。近頃、連日のように貴士が通ってマークを見ている。
ある日、マークは貴士に声を掛けられた。
貴士「君は、最後の最後まで、嘘がつけるか?最後の最後まで、芸ができるか?」
マーク「勿論です!お仕事やったら、やらしてもらいます!」
マークは笑顔で答える。
貴士「じゃあ、頼みたい仕事がある。少し長丁場になるが、事務所には通しとくので。来月最初の日曜、ここに来てくれ。僕の名前を出してくれたら入れるから。」
貴士はマークに紙を手渡した。
―そのオッサンは、貴士とだけ名乗った。―
父と同じ名前を日記に見つけた花の声が、一瞬止まる。
―指定された場所は、大阪と京都の中間あたり。―
到着したマークは、そこで同じ仕事で呼ばれた歌手の神酒マリアと出会う。警備員にインカムを渡されたマークとマリア。
―イヤホンからきこえてきたのは、貴士さんの声―
貴士「ようこそ、マーク、マリアさん。車を駐車場に停めて、地下鉄に乗ってくれ。行き先は一つなので、停まった所で降りればいい。」
―車内は人が大勢やった。幸せそうな家族連れや、カップルが。―
車内でマークとマリアは会話する。新しいテーマパークのオープニングイベントでふたりとも呼ばれたのだという。
マーク「マネージャーとか、付き人とかは!?」
マリア「一人で行けって言われた。全部向こうで用意するからって。変な話。なのになぜか飼ってる犬は連れてけって。」
地下鉄が終点の龍宮に着いた。マリアと知り合いのDJ各務が、場内アナウンスを務めている。野球選手の火野も招待されてやってきた。
―お客は5千人てきいた。どえらいにぎやかやった。―
所長の織田が、招待客全員にオープニングの挨拶をする。
部屋で待つマークとマリアの元にDJの各務と、映像係の猿渡、有名漫画家の坂田が現れ、それぞれに挨拶をする。
―僕らの部屋はお客さんとは離れてて、夏のセクションてとこにある。お客はなんも知らんかった。イベントに無料招待でラッキーやと思てた。みんな、騙されてた。明け方、地震があった。揺れは、不気味に続いた。変な地震やと思た。―
貴士が場内アナウンスをするように、各務に命じる。躊躇する各務に、貴士は言う。
「カガミくん、最後の最後まで、どんな時でも臨機応変に喋れるかときいたら、できると答えたな。」
各務は覚悟を決めて、アナウンスを始めた。
「皆さん、どうか落ち着いてください。これから、地上で流されてるニュース映像を、センターホールの大スクリーンに出します。…皆さん、出来たら座って。できたら、大事な人の手を握って見てください。」
―最初は何が映ってんのか、ようわからんかった。よく見るニュースキャスターが、やたら叫んでいた。―
「昨夜…深夜すぎ、直径数十キロにも及ぶ隕石が、北アメリカ中央部に落ちたそうです。続いて太平洋に二つ。シベリアとインド洋にも落下。その後、様々な大きさの隕石が世界中に降り注ぎ…それは今もなお、続いているそうです。落下の衝撃と爆風と火災で、多くの都市が跡形もなく消え去り、また、引き起こされた高波によって、海岸線のみならず、内陸の8割が水に埋まり、この日本列島も例外でなく、押し寄せる高波になすすべはなく、更に休火山のいくつかが活動を始め、富士山も先ほど噴火…日本は、数時間で壊滅状態に…」
―その時やっと、スクリーンに映ってるもんがなんなんかわかった。ウソやろ、そう思たわ。―
警備員が現れ、動揺する招待客たちを整理する。貴士は納得が行かない招待客たちをいくつかのグループに分けてエレベーターに乗せ、外の様子を見せた。
―そのエレベーターは地上直通やった。まあ、こんなアホな話はないやろ、なんちゅう大げさなネタを振るんかと、僕は自分の目で見るまでは…もう夜が明けてる時間やったけど…えらいことになった…と思た。―
貴士「舞い上がった粉塵と噴煙で太陽の光が届かず、地球は冷えてゆく。ミニ氷河期の到来だ。生き残れる植物も動物も、ほとんどないだろう。」
マリア「水に埋まるのを知ってたから、"龍宮"なんですね。知ってたんだ?」
―エレベーターは数回上下し、代表で行った人々は、腰を抜かして転がりでた。えらいことになったなあと、ぼんやりと考えてた。―
ホールで所長が招待客に語り始める。
「皆さん!これは予測されていたことです。数十年前から、予測されていました。だから政府は対策を講じたのです。それが、ここです。ここ龍宮は、この日のためのシェルターです。あなた方は、生き残るべく選ばれた人たちなのです。食料などの備蓄は万全です。ここだけで自給・循環できるエネルギー・システムも万全。なんの心配も要りません。このようなシェルターが日本中にいくつもあります。相互に連絡を取り合い、協力しあっていきます。皆さんはここで、外に出られるその日まで、頑張って力を合わせ、希望を胸に、ここで生きてゆきましょう!」
パニックが起きた。
―泣いて叫ぶ人たちと、放心する人たちと、出口を求め警備員に殴りかかる人たちで、将棋倒しになりそうやった。ああ、みんなそれで死ぬんやなあと思た。人は悲しくて死ぬんや。
マリアが救った。―
ホールの舞台に立ったマリアは歌い始めた。即興で各務もピアノを弾く。
―テレビで毎日いやっちゅう程きいてる、マリアのバラードやった。それやのに、泣けてきたんは、なんでやろ。天使の声て、ほんまこんなんちゃうか…って、思えたからかなあ…。
みんないつのまにか、静かに泣いていた。僕らは、自分達の役割を知った。―
マークは客の前で腹話術をして、皆を笑わせて回った。
5【―狭き門―】
―奇妙な日常が始まった。センターホールの天井は巨大なスクリーンになってて、24時間季節と時間に合わせた空が映る。夜には星空になるし、雨の日もある。雨ゆうても、音だけやけど。館内あちこちにスクリーンやモニターがあって、いっつも自然の風景が映ってる。―
貴士「これが欧米やイスラム圏なら、まず教会やモスクを中心に据えるんだろうが、日本人にはそういう拠り所が実はない。あるとしたら自然の風景と、四季の移ろいなんだよ。都会人でもね、自然の中に八百万の神々を見てきた民族だから。」
―貴士さんの言うとおり、海を模した一角には、いっつも人が集まってる。ちゅうても小ちゃい神社も、寺もあんのやけど。合同葬儀も行われた。多くの人が身内を亡くしてたから。その点僕は、近しい身内がいてへんので、気楽や。―
マリア「わたしもそうよ。カガミくんも、サルワタリくんも、そうらしいわ。わたしたちやスタッフに関しては、そういう人選をしたのね、きっと。」
―人選については聞いてみた。―
貴士「君が一番、嘘がうまいような気がしたんだ。」
坂田は毎日2ページの連載漫画、「ワンダフルQ」を配信し始めた。
―日本中のシェルターと、毎日交信がある。みんなで励まし合いや。人々は一回落ち着くと、静かに指示に従った。確かに一つの街やった。みんな週休二日で働き始めた。僕はとゆうと、今まで通りネタを考え、練習して、あちこちを訪問して披露する。週末は、ミキ・マリの舞台の前座や。
水は、飲み放題や。他の飲食には、チケットが配給された。―
マークはしばしば、おっちゃんの開くラーメン屋に足を運んだ。
―おっちゃんは、騒ぎの時先頭に立って帰るてわめいてた人やけど、今は娘さんと元気に働いてる。おっちゃんは、上でもうまいラーメン屋をやってたらしい。―
シャチのピー助の着ぐるみに入った貴士は、日々苦情を聞いて回る。
―奇妙やけど、みんなちゃんと毎日を生きてる。その大人たちのちゃんとさに、僕はちょっと感動した。まだ地震は頻発してて、ひやりとすることも多いけど。ちょっと不穏げな若者もいてるけど。―
美帆は倉庫で備品係を務めていた。美帆はある日、倉庫の奥で吸殻を発見する。
―僕らは毎日集まって、報告会をするのが日課になった。―
貴士「喫煙者は入れたくなかったんだよ。空気は汚すし、火事も心配だし。」
マーク「他にはどんな選考基準やったんです?」
貴士「酒癖が悪いのもはじいた。60代以上は選ばず、50代もわずか。特別なアレルギー体質や持病のある者、偏食の者、太り過ぎの者、あとは犯罪歴のある者、学生時代いじめを平気でやった者、ニートも入れなかった。」
マリア「つまり若くて健全で働き者を選んだと。」
貴士「そうなる。あとはなるべく、親子やカップルで入れるようにした。」
マーク「貴士さんの家族は?」
貴士「妻が倉庫で働いてる。」
各務「奥さんいてるんや!子どももいてたりして!?」
貴士「こどもは…別の所にいる。」
マーク「別のシェルターに!?なんでまた?」
貴士「あらゆる門は狭いのでね。いや…妻の口癖なんだが。」
―週に3日、野球中継がある。どこかに球場用ドームがあるらしく、火野選手や他の選手があちこちのシェルターから集まって、試合をする。観客席がないそうで、モニター応援しかできへんけど、みんなめっちゃ盛り上がる。憩いのひとときや。―
ある晩、倉庫の備品チェックに行った美帆は、そこで壁にドリルで穴を開ける若者たちを発見する。急いで若者たちを止めようとする美帆だが時既に遅く、次の瞬間、壁から大量の海水が浸水してきた。
急いで対応しようとする美帆だが、若者たちがシステムの電源を切ったせいで防護扉が閉まらない。美帆は近くのPCで扉を閉める指示を出したが、1つだけ扉が閉まらなかった。
わずかに開いた防護扉からは、外に出られるだけの隙間はない。美帆は覚悟を決めて、内側からドアを閉じた。
倉庫にいる美帆にコーヒーの差し入れに来た貴士は、閉ざされた扉の中で、水中に閉じ込められた美帆と目があった。貴士は美帆の最期の時を見届けて、膝を落とした。
―今朝は雨の音で目が覚めた。館内は騒がしく、夜の内に倉庫が海水で埋まって、それを防ごうとした貴士さんの奥さんが亡くなったことを知った。―
冬セクションの倉庫の3/4が埋まり、水を抜く方法はない。このままでは食糧が3ヶ月も持たない。貴士は大臣たちと会議を開いて、Xプランを発動させることにした。
半分の住民を、別のシェルターに移動させると所長は指示を出した。
―転がり落ちるみたいに、何かが始まってた。―
6【―クリスマス・キャロル―】
―倉庫が水で埋まって食糧が減ったんで、半数の人が近くに完成したシェルターに移ることになった。マリアさんのコンサートで送り出す。勿論僕も、新作を披露。
人々は少しずつ地下鉄に乗って、伊勢シェルターに移って行った。翌朝のシェルター通信に、伊勢も加わる。最近ノイズが多くて、映像も音も乱れがちやけど、他とつながってるちゅうのは、何より心強い。―
所長が中心になって「クリスマス・キャロル」の演劇の練習を始め、牛の世話をする忠さんは自腹を切って子供たちにミルクを配って回る。
―みんなお互いそれぞれを、元気づけよとしてるんやと思う。スクリーンにクリスマスイルミネーションが加わった。手作りオーナメントと願い事の短冊を木に吊るすのが大流行。またお達しがあった。更に半数の人間が、伊勢シェルターに移ることになった。―
最近、具合が悪そうな猿渡を各務たちは問い詰めた。
猿渡「聞いたら共犯になるけどええ?ほんまはね、1ヶ月前ぐらいから、どこのシェルターとも連絡がとれへんねん。首相がいてる関東も、四国も九州も、北海道もどっこも。」
各務「毎朝シェルター通信来てるやん。」
猿渡「ほやからあれは、僕が作ってる映像なん。使い回して切り貼りして、ノイズを入れてごまかして、毎日作ってるんよ。」
マーク「伊勢は?」
猿渡「ほやからつまり、伊勢からもほんまは連絡ないんやわ。」
火野「嘘はそれだけとちゃうよ。」
マーク「え!?今、試合に行ってるんちゃうん?」
火野「そんなもの、ないよ。球場シェルターなんかない。オレはずっとここにいてた。ここでサルくんと、試合の映像を作ってた。貴士さんがオレに聞いたんや。最後の最後まで、野球選手でいられるかって。『野球ができるか』じゃないとこがミソや。まさか野球をするフリをせなならんとは。」
猿渡「ほやから心配で寝られへんよになってんねん。『伊勢』なんてシェルター、ほんまにあるんやろか?」
各務「所長!一体どうなってんねん!」
織田「あの…すみません。私は何も知りません。所長というのは嘘なので。私…売れない役者なんです。ある日貴士さんが来て、ちょうどいい役があるって…」
―嘘ばっかりや。もし「伊勢」も嘘やったら…!?―
貴士「知りたいか?なら明日、伊勢に移る人たちの列車に、一緒に乗って行くといい。」
―僕が行くことになった。みんなは持ち場を離れられへんかったから。僕とピー助が車内で漫才を繰り広げる。やがて地下鉄は、小さな駅で止まった。―
ピー助に扮した貴士に促されて、マークは列車を降りた。乗客たちは全員眠り始めた。催眠ガスが入れられ、警備員たちが乗客の身ぐるみを全部剥がした。
裸の人間たちは全員、巨大なファンの待つ穴に落とされ、バラバラにされた。
マークは逃げ出し、地上に向かってはしごを登りはじめたが、上に行くにつれてはしごは凍りつき、登ることが出来なかった。
仕方なく戻ったマークは、貴士に尋ねる。
マーク「…なんも…感じへんのか…?あんた…」
貴士「だから一応、知り合いのいない関西にしてもらった。」
マーク「じ…自分達から減らしたらどうなにんや。」
貴士「いずれそうなる。外に出られなければ。」
マーク「僕も…僕らも殺すんか?」
貴士「君等は僕が見込んで連れてきたんだ。まだまだ働いて貰わないと。ほら、次が来たぞ。最後に楽しんでもらえ、マーク。出来るな?最後の最後まで、君は嘘がつけるだろう?」
シェルターに戻ったマークは、全てをマリアたちに話した。
ある日、顔なじみのラーメン屋のおっちゃんも、伊勢に移ることになった。おっちゃんをなんとか引きとめようとするマークに、おっちゃんは答えた。
「ええんや、マーク。娘が残れるんやから。わしはもう充分したいことしてきたし、ここまでラーメンが作れて幸せやった。娘がここにいてられることが望みなんや。なんもせんでええ。笑かして見送ってくれ。」
涙をこぼしながら、マークは最後のラーメンを啜った。
―僕らはおっちゃんたちを見送った。おっちゃんも僕も笑てた。おっちゃんの最後のラーメンを、もっと味おうて食うたらよかった。―
マークたちは真実を知って動揺しながらも、皆プロとして他の住民たちの気が紛れる用に、それぞれに行動していた。
ある日突然、牛のメアリーが暴れて咬みつく騒ぎが起きた。
―劇の上演は中止になった。それどころじゃなくなったからだ。―
===穀雨の章===
===穀雨の章===
===穀雨の章===
捕らえた貴比古に、協一郎はスミスの日記の在り処を問い詰める。幼い頃から凛を利用し続け、人としての幸せを与えずに育てた雨宮を、貴比古はなじる。貴比古の言葉に動揺した凛は、貴比古に銃を向けた。



